割賦販売法とは、代金を分割して支払う割賦(かっぷ)販売にて、公正で健全な取引を維持し、消費者を保護するための法律です。
経済産業省が発表した「割賦販売法の一部を改正する法律案」が2020年3月3日に閣議決定され、2021年4月1日から施行されました。
AI・ビッグデータ活用などテクノロジーの発達により決済サービスが多様化するなか、より安心・安全に取引を行える環境づくりが必要と判断されたためです。
具体的には
- 少額の分割後払い規制の導入
- 審査手法の高度化への対応
- QRコード決済事業者等のセキュリティ対策強化
といった措置がとられます。
なお、2016年に改正された割賦販売法については、下記で詳しく解説していますので併せてご参照ください。
目次
割賦販売法とは
割賦販売法とは、消費者の保護と健全な取引環境を目的に、クレジットカード会社のような分割・後払い事業者を規制する法律です。
▼割賦販売とは 代金を分割して支払う販売方式のこと。分割方法や支払い間隔は様々なものがあり、すべてを含めて割賦販売と呼ぶ |
たとえば、先に一定の頭金を支払う前払い式、クレジットカードを利用した一括払いなどの後払い式、リボルビング払いも割賦販売法の規制対象です。
割賦販売法が2020年に改正された3つの背景
2020年に法改正が行われた背景として、主に下記の3つが挙げられます。
- ECサイトでの取引やキャッシュレス決済の増加
- サイバー攻撃・なかでもフィッシング被害の増加
- クレジットカード不正利用被害額の増加
結論からお伝えすると、決済チャネルが多様化したり、カード不正の被害額が増加したりするなか、利用者が安心・安全に利用できる環境をさらに整える必要がありました。
同時に、新たに登録できるようになった決済サービス提供事業者にも、インターネットセキュリティへの関心を高め、クレジットカード番号などの漏えい事故への対応を求める必要が出てきたという背景があります。
【背景1】ECサイトでの取引やキャッシュレス決済の増加
新型コロナウイルス感染症による巣ごもり需要の影響もあり、ECサイトでの取引やキャッシュレス決済が拡大している現状があります。
下記の図は、2013年から2021年までのECサイト市場の推移を表したものです。
【EC市場規模の推移】
※引用:経済産業省
2021年の日本国内におけるBtoC-EC市場規模は、前年の約19.3兆円から約20.7兆円になり、前年比7.35%増で拡大していることがわかります。
下の図からは、ECサイトの市場拡大に伴い、クレジットカードや電子マネーなどキャッシュレス支払いの利用も増加傾向であることがみてとれます。
【キャッシュレス支払額及び決済比率の推移】
※引用:経済産業省
さらに、キャッシュレス決済のうちクレジットカード取引は約9割を占め、今後も増加していくことが予想されます。
【背景2】サイバー攻撃・なかでもフィッシング被害の増加
サイバー攻撃とは、サーバーやPC・スマートフォンなどに対して、ネットワークを使った手口でシステムやデータの破壊・窃取・改ざんなどを行う犯罪行為のことです。
【NICTER(大規模サイバー攻撃観測網)におけるサイバー攻撃関連の通信数の推移】
※引用:総務省
「NICTER(大規模サイバー攻撃観測網)におけるサイバー攻撃関連の通信数の推移」を見ると、2021年にサイバー攻撃として使用された通信数は、2018年からの3年間で2.4倍にもなっていることがわかります。
そして、サイバー攻撃のなかでも急増しているのは、フィッシング攻撃の報告件数です。
「フィッシング対策協議会」の資料によると、2022年9月末時点でのフィッシング報告数は2019年の約13.5倍にものぼる件数になっています。
これは、IPアドレスに対し18秒に1回攻撃関連通信が行われている計算になります。
※引用:フィッシング対策協議会
フィッシングについて詳しく知りたい方は、被害に遭った時の対処法まで解説している下記の記事をご覧ください。
【背景3】クレジットカード不正利用被害額の増加
加盟店でのクレジットカード情報の非保持化が進んできたこともあり、加盟店単位での漏えい規模は縮小しています。
一方で、漏えい事案の大半はセキュリティ対策が不十分なECサイトを運営する加盟店で起きているのが現状です。
下記は2023年6月に「日本クレジット協会」が発表した、クレジットカード不正利用被害額の発生状況です。
※引用:一般社団法人日本クレジット協会
2023年のカード不正利用の被害額は、3ヵ月で121億円にものぼり、前年の同時期(2022年1月〜3月)よりも約21億円増えていることがわかります。
最新のクレジットカードの不正利用について下記の記事にまとめてありますので、参考にぜひご覧ください。
2020年に改正された割賦販売法の2つの目的
2020年改正の割賦販売法の目的は大きく2つあります。
- キャッシュレス決済の利用促進
- フィンテック(※)事業者の参入促進
どちらも「キャッシュレス決済の利用推進」と「フィンテック事業者の参入促進」という政府の政策方針に基づいたものです。
※参考:国民生活センター
▼FinTech(フィンテック)とは
金融(Finance)と技術(Technology)を掛け合わせた造語です。銀行や証券、保険などの金融分野に、IT技術を組み合わせることで生まれた新しいサービスや事業領域などを指します
※引用:野村総合研究所
改正割賦販売法の目的について、1つずつみていきましょう。
【目的1】キャッシュレス決済の利用促進
1つ目の目的は、キャッシュレス決済の利用を促進するためです。
経済産業省は、下記の理由から2025年までにキャッシュレス決済比率の目標を40%に掲げています。
キャッシュレスの推進は、消費者に利便性をもたらし、事業者の生産性向上につながる取組です。消費者には、消費履歴の情報のデータ化により、家計管理が簡易になる、大量に現金を持ち歩かずに買い物ができるなどのメリットがあります。事業者には、レジ締めや現金取り扱いの時間の短縮、キャッシュレス決済に慣れた外国人観光客の需要の取り込み、データ化された購買情報を活用した高度なマーケティングの実現などのメリットがあります。
※引用:経済産業省
さらに、後払いや極度額10万円以下の取引の需要が高まっていることから、利用者がより安心・安全に多様な決済手段を利用できるようにしなければならない、という目的があります。
集計しデータ化された購買情報を活用したマーケティングについては以下から資料をダウンロードしてみてください。
購買情報を活用したマーケティングに関するお役立ち資料はこちら
【目的2】フィンテック事業者の参入促進
2つ目の目的は、フィンテック事業者の参入促進です。
前述したとおり、フィンテックとは「金融分野にIT技術を組み合わせる」ことで生まれた新しいサービスのことをいいます。
決済方法の多様化により、新たに後払いサービスに参入してきている異業種企業(SNS系企業、ECモール系企業など)も少なくありません。
一方で、増え続けている不正アクセスの事例や懸念もあることから、セキュリティ対策が義務付けられています。
2020年に改正された割賦販売法で押さえるべき5つのポイント
今回の改正で事業者様が押さえるべきポイントは、次の5つです。
- 少額の分割後払い規制の導入
- 審査手法の高度化への対応
- QRコード決済事業者などのセキュリティ対策強化
- 書面交付義務の見直し
- 業務停止命令の新設と罰則の強化
1つずつ解説していきます。
【ポイント1】少額の分割後払い規制の導入
少額(極度額10万円以下)の分割後払いサービスについて、サービス提供事業者の登録制度を創設しました。
「登録少額包括信用購入あっせん業者」と呼ばれ、定義は下記のとおりです。
▼登録少額包括信用購入あっせん業者とは
包括信用購入あっせん業者のうち利用者に交付しまたは付与するカード等の極度額が10万円以下の者に限る業態であり、かつ利用者支払可能見込額の算定を行う者であって、経済産業省に登録された事業者をいいます
※引用:国民生活センター
登録内容としては、純資産要件((資産-負債)≧資本金等×90/100をグループ又は5年以内に達成等)と、適切な限度額審査に関する要件を定めるとしています。
また、消費者保護規制やセキュリティ規制は従来のクレジットカード会社と同等のものが課されるようになります。
下記の表は、旧法と改正法の違いを項目ごとに比較したものです。
【旧法と改正後の比較表】
旧法 | 改正法 | |
---|---|---|
包括信用購入あっせん(クレジットカード) | 事業規模、限度額などに拘(かか)わらず一律に規制 | 少額(極度額10万円以下)の分割後払いサービスについて、サービス提供事業者の登録制度を創設 |
登録要件 | ・資本金または出資額が2000万円以上 ・(資産- 負債) ≧資本金等 × 90/100 | 【登録少額包括信用購入あっせん業者】において ・資本金要件の定めなし ・純資産要件は(資産-負債)≧資本金等×90/100をグループ全体で達成、または5年以内に達成の見込みがあれば可 |
与信審査 | 個別支払可能見込額の調査・算定を義務付け | 【登録少額包括信用購入あっせん業者】において 個別支払可能見込額の調査・算定を義務付け |
契約の解除等に係る期間 | 20日以上の相当の期間 | 【登録少額包括信用購入あっせん業者および・高度な審査手法を用いる事業者】において 7日間 |
つまり、登録少額包括信用購入あっせん業者においての登録要件が緩和されており、結果として登録少額包括信用購入あっせん業者の業務の円滑化や新規参入が見込めます。
【ポイント2】審査手法の高度化への対応
限度額の審査について、データなどに基づく新たな審査手法に対する認定制度が創設されました。
具体的には、経済産業大臣が認定する制度を創設。
認定事業者は認定を受けた審査手法を用いることで、現行の支払可能見込額調査に代えられるとします。
認定にあたっては審査手法や内部管理体制を確認し、認定後も定期報告などを行い実施状況を監督します。
そこで著しく不適切だと判断された場合は、改善命令や認定取消しといった処置がとられます。
【ポイント3】QRコード決済事業者などのセキュリティ対策強化
QRコード決済事業者などのセキュリティ対策も強化されます。
次の表は、近年のキャッシュレス決済システムの進展を受けて新たに加えられた事業者です。
旧法までの事業者 | 改正法で加えられた事業者 |
---|---|
・現行のクレジットカード会社 ・立替払取次業者 ・加盟店 | ・決済代行業者 ・QRコード決済事業者 ・ECモール事業者等 |
このように、以前はクレジットカード番号等の適切管理義務の対象外とされていた「決済代行業者」や「QRコード決済事業者」、さらには「ECモール事業者」が適切管理義務の主体に追加されました。
QRコード決済の詳細については、こちらの記事もご参照ください。
【ポイント4】書面交付義務の見直し
前提として、包括信用購入あっせん業者には、次の3つの場面で書面交付義務が規定されています。
- カード等発行時または極度額増加時の取引条件表示
- カード等による代金決済時の契約書面交付義務
- 支払いの遅延による契約解除または残金の一括返済請求時の20日以上の相当期間を定めた書面による催告
※引用:国民生活センター
旧法では、上記の「1.取引条件表示」と「2.契約書面交付」において利用者が承諾した場合にのみ、電磁的方法での提供が認められていました。
それに対し、2020年の改正では利用者の承諾がなくとも電子メールでの情報提供が可能となり、書面交付義務の緩和となりました。
この背景には、スマートフォンやPCでのキャッシュレス決済の普及とともに、包括信用購入あっせん業者の負担軽減が重要視された点があります。
ただし、利用者から求められた場合は、遅滞なく書面での発行を行わなければなりません。
【ポイント5】業務停止命令の新設と罰則の強化
検査・監督手段の強化として「包括信用購入あっせん業者」および「登録少額包括信用購入あっせん業者」に対し、下記のように従来の「登録取消し」と「罰則」の間に業務停止命令が新設されました。
- 改善命令
- 登録取消し
- 業務停止命令←新たに新設
- 罰則
また、業務停止命令における罰則も追加されています。下記は追加された罰則の一部です。
【罰則の追加の一部】 二年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。 一年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。 ※引用:割賦販売法 |
背景として、不正アクセスによるクレジットカード情報漏洩の増加などが影響しており、健全なクレジット取引の発達を促すことを目的としています。
事業者様が実施すべき対策「クレジットカード・セキュリティガイドライン」
「クレジットカード・セキュリティガイドライン」とは、ECサイト事業者様をはじめ、クレジット取引に関係する事業者様が実施すべきセキュリティ対策のことです。
2016年改正時の「実行計画」の後継の位置付けとなります。
実行計画とは、クレジットカード加盟店が改正割賦販売法上のセキュリティ対策義務を果たすための実務上の指針です。
そのなかで、EC事業者様が実施すべき改定ポイントは大きく次の3つです。
- 2025年3月までにすべてのEC加盟店にEMV3-Dセキュアを導入する
- EC加盟店は基本的なセキュリティ対策に取り組む
- ユーザーの認証登録・移行を啓発する
この他にも
- クレジットカード情報の非保持化
- 国際的なセキュリティ基準(PCIDSS)に準拠した情報保持
なども挙げられており、クレジットカードを使用する際の安全・安心な環境整備が強く求められていることがわかります。
下記の記事では、2023年に公表されたクレジットカードガイドライン4.0の改訂ポイントを詳しく解説しています。
3Dセキュアについても触れていますので、参考にしたい方はご一読ください。
また、当サイトでは、クレジットカード不正の現状や主な手口についてまとめた資料を無料配布しています。自社のセキュリティ対策にお役立てください。
まとめ:割賦販売法の改正とともに時代にあった運営・対策を
割賦販売法の改正は繰り返し行われており、時代にあわせた運営・対策が求められています。
2020年の改正のポイントは、次のとおりです。
- 少額の分割後払い規制の導入
- 審査手法の高度化への対応
- QRコード決済事業者等のセキュリティ対策強化
- 書面交付義務の見直し
- 業務停止命令の新設と罰則の強化
2020年に改正された内容は、少額の分割後払いをより安全に使えるようにするものが多く、極度額10万円以下の取引の需要が高まっていることが見てとれます。
需要が高まり利用者が増えればそれを狙った不正者も増加するので、事業者様はセキュリティの強化も同時に導入するのがおすすめです。
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